BUSINESS事業と仕事

プロジェクト
ストーリー

医薬品ブランドで生活雑貨を作る!?
市場を倍増させ、シェア50%超を実現した
バンテリンコーワサポーター開発プロジェクト

  • 宮瀬 昌行 医薬事業部 セルフケア広域営業本部 
    執行役員 営業本部長
  • 細江 幸宏 生活関連事業部 
    ヘルスケア開発部 部長

プロ野球・中日ドラゴンズの本拠地球場「バンテリンドーム ナゴヤ」に名を冠し、興和の主力ブランドである「バンテリン」。1985年に「バンテリンコーワ」が誕生して以来、関節痛や腰痛、筋肉痛などをやわらげる塗り薬・貼り薬として販売されてきた。2008年からはさらなるブランド力の強化に取り組む。浮上したのは、新製品であるサポーターの開発というアイデア。後に市場シェア50%超を占めるまでに成長する「バンテリンコーワサポーター」はどのように誕生したのか。キーパーソンとなった2人の話を交えながら、その道のりをたどる。(文中敬称略)

バンテリンブランドの強化策として始まった
サポーター開発

かつて日本の多くの企業は、「いいものを作れば売れる」というプロダクトアウトの考えのもとで製品開発を行ってきた。しかし、ヒト・モノ・情報がグローバルに行き来し、生活者のニーズが多様化するようになった現代では、その発想では通用しにくくなった。ニーズを的確にとらえたモノづくりを行うことや、商品やサービスに対する愛着を醸成する「マーケットイン」の発想が、ヒット商品を生み出すカギになってきたのだ。すなわち、マーケティングだ。宮瀬は当時を振り返る。

「2000年代初頭の医薬事業においては、宣伝部と開発部がマーケティングに近いことも担っていました。効果の高い医薬品を開発し、医薬品の効果を広告で伝えていくという手法ですね。それに対して、マーケティングやブランディングの視点からの商品開発という方針が示されたのです」

マーケティングを組織名に反映した宣伝・マーケティング戦略部を新設。宮瀬と細江もここに在籍し、バンテリンブランドに取り組んでいた。バンテリンブランドについては、様々な著名スポーツ選手をCMキャラクターに起用してきたが、2009年には日本人メジャーリーガーを起用し、ブランドの認知度向上とファン拡大に取り組むことになった。その一環として、日本人メジャーリーガーとのコラボアイテム開発も行われた。後にバンテリンコーワサポーターへつながるアイデアが生まれたのはこのときだと、細江は言う。

「タオルやジャンパーなど、様々なコラボアイテムが検討されました。サポーターもアイデアとしては浮上したのですが、実現はしませんでした。ただ、お蔵入りさせてしまうにはもったいないという声もありました」

そこで持ち上がったのが、「コラボアイテムではなく、バンテリンブランドを冠したサポーターを正規の製品として開発しよう」というアイデアだ。ここに、「バンテリンコーワサポーター」の開発プロジェクトがスタートした。

発想を大転換。医薬品から
「筋肉や関節の不安感でお悩みの方に寄り添うブランド」へ

そう、当時のバンテリンコーワは、塗る・貼るなど製品によって使い方は様々だが、いずれも「外用鎮痛消炎薬」という医薬品だ。「インドメタシン」という主成分が経皮吸収され痛い部分に働きかけることが科学的に証明された上で、医薬品として発売されている。一方でサポーターは、医薬品ではない。興和としては「雑貨品」として扱われる製品だ。

「医薬品として築いてきたバンテリンブランドを、どうやってサポーターに展開するのか。ここが議論の焦点になりました。たどり着いた答えは、『バンテリンは筋肉や関節の不安感でお悩みの方に寄り添うブランド』というものです。必ずしも医薬品であることにこだわらず、より広い視野で、困っている人に働きかけようと考えました」

発想の転換は、モノづくりをするうえでのアイデアの広がりを加速させた。サポーターのような繊維製品に、医薬品の成分であるインドメタシンを入れるわけにはいかない。どうすればバンテリンの名に恥じないサポーターがつくれるのか細江は悩み続けた結果、新しいブランドの定義から、「テーピング機能を備えたサポーター」という製品コンセプトを考えた。

「繊維の編み方によって、テーピングテープのような伸びや動きを制限することができないか?これを活用することで、サポーターが持つ構造や形状でアプローチできると考えました。医薬品は効果、そしてサポーターは使用実感という違ったアプローチながらも、ともに『バンテリンのおかげ』と感じてもらえれば、ブランドに期待される価値観を損なわず、裾野を広げられるのです」

ブランドの再定義とメディカル発想の「テーピング理論」を活用したサポーターの開発に、宮瀬も手応えを感じていた。さっそく、Product(商品・サービス)、Price(価格)、Promotion(販売促進)、Place(流通)というマーケティングの4Pの視点から新商品のあり方を検討。特に、Placeに独自性を打ち出せる可能性を感じたと言う。

「サポーターはスポーツ選手が使っているイメージがありました。しかし私たちは、スポーツ店を主たる販売ルートにするのではなく、ドラッグストアを主軸としました。というのも、私たちがつくろうとしていたサポーターは、日常におけるからだの不安感に着目する製品だから。体の不安感でお悩みの方はスポーツ店にではなく、日用品や他の薬の買い物をする場所、すなわちドラッグストアにいると考えました」

編み方、部材、原料や糸にいたるまで新開発。
繊維事業の強みを最大限に発揮

興和は繊維事業において、創業以来長い歴史を持つ。サポーターという繊維製品は、興和の強みが発揮しやすい分野である。ドラッグストアという販売ルートも、一般用医薬品で豊富な実績を持つ領域だ。ここでも、興和ならではの強みを活かすことができる。
とはいえ、「サポーターでテーピングのような働きを」という取り組みは初めての挑戦。実現に向けて細江は、協力していただける会社を探すために飛び回り、製薬会社であることの強みも活かし整形外科やテーピングの専門家のもとに足を運んだ。

「従来は柄やデザインを表現するために用いていた編み方を、伸縮性を変えたり締め付けを強めるという機能性のために用いるという、新たなテーピング編みという手法を導入し、簡単に着脱でき長時間快適に使用できるテーピング機能付きサポーターが誕生しました。」

市場に投入されたバンテリンコーワサポーターは、着実にユーザーを増やしていった。そうなると、「他の部位の商品もほしい」「さらに快適性や使用実感のよい商品もほしい」という声が届くようになった。

「大変なのはそこからでした。編み方の工夫だけではニーズに応えきれなくなったんです。そこでまず、より強いテーピング機能を持たせるために、関節に添える支持体を導入しました。となると、それをつくるメーカーの開拓もしなければいけないし、適切な強度やしなやかさを実現できる材料や加工方法も考えないといけない。さらに、支持体すら使わずにより高い使用実感を得られる商品がほしいというニーズも生まれてきました。そこで、最終的には加工糸や素材の開発というさらに上流部分から手掛けることになりました」

この過程でプロジェクトチームは、量産品質を高い次元で安定させることを狙い、製造工程の自動化も実現した。これにより、コストを抑えながら高品質なモノづくりが可能になった。サプライチェーンにおける川上から川下までという興和の強みが、ここでも発揮されていたのだ。

事業領域を超えた協業が、
ブランドの可能性を広げていく

バンテリンコーワサポーターの発売後、サポーター市場は2倍あまりに拡大した。興和は市場の50%を超えるシェアを持つ※。つまりバンテリンコーワサポーターは新たな市場を生み出し、そのすべてを取り込んだと言える。

「日常的な関節や筋肉の不調に悩んでいる人がそれだけ多くいるのに、医薬品だけでは取り込めない人たちがいらっしゃること、しかもその人たちは特に何も対処せずにいたことがはっきりしました。バンテリンコーワサポーターは潜在ニーズを掘り起こし、見事に市場を創り出した製品だと言えます」

そう語る宮瀬は、プロジェクトを通して、物事を柔軟に見つめ直すことの大切さを学んだという。外用鎮痛消炎の医薬品だったバンテリンブランドを、「筋肉や関節の不安感でお悩みの方に寄り添うブランド」と捉え直したことがその代表例だ。また、白やベージュが主流だった当時のサポーターに、黒を投入したことにも驚かされたという。

「当時、下着にも黒のトレンドが広がりつつあったんです。まったく違う分野に目を向け、そこからヒントを得て自身の仕事に応用することの重要さに気づきました」

バンテリンコーワサポーターは医薬品ではないため、医薬品のような効能効果を謳うことはできない。にもかかわらず、プロジェクトチームは科学的な検証を重ね、確かな働きをデータとして蓄積していった。

「治験の重要性を理解し、実施するためのノウハウも持っている当社だからこそ、データ収集の重要性も理解していました。ここで得たデータは、メディカルデバイスとして販売される海外で大きな力を発揮してくれます。品質保証の体制も同様に、医薬事業部を持つ当社だからこそ、迅速に高いレベルで構築することができました」

このように、プロジェクトを通して興和が持つリソースの豊かさも実感した。プロジェクトの過程では様々な新技術が開発された。それらは興和の知財担当部署の協力のもと、特許の取得へと結び付けられたのだ。また、ブランドが歴史のなかで培った、無形の財産にも気付かされた。

「プロジェクトを前進させた原動力の1つに、『バンテリンと名乗る以上は、それに恥じないものをつくらないといけない』という気持ちがありました。関わる人の背中を押してくれ、質の高い仕事へと導いてくれるのも、ブランドの力なのかもしれません」

宮瀬と細江は、「バンテリンコーワサポーターで得た経験は、キューピーコーワやキャベジンコーワなど、他のブランドでも応用できる」と口を揃える。そして、「興和のリソースを使えば、さらに新しいことにチャレンジできる」とも。ブランドの再定義が、新たな市場の創出とシェア50%超という成果をもたらしたバンテリンコーワサポーターの開発プロジェクト。次はどのブランドがどのように定義され直し、どんな変化と成長を遂げるのか。あるいは、どんな新ブランドが誕生するのか。興和の挑戦は、まだまだ続く。

※出典:インテージSRI+ サポーター市場 
2022年4月~2023年3月 累計販売金額シェア
所属部署や掲載内容につきましては取材当時のものです。